一番求めてくれる人に、わかりやすく届けることの大切さ
私の前職はアパレルの店長でした。
キャリア女性をコアターゲットとするアパレルメーカーに勤務をし、
店長昇格後は、大丸東京店で1年間、その後、今はなきプランタン銀座店で2年間勤務し
・客層分析・販売戦略の立案
・商品の仕入れ計画の作成
・顧客のニーズに合わせたソリュション型接販売・顧客づくり
・店内レイアウト・ディスプレーづくり
・部下の育成・マネジメント
などなど、店の運営全般を任されていました。
売上が好調だった大丸から、少し低迷ぎみのプランタンに異動した私が
真っ先に行ったこと、
それは「できるだけ店頭に並べる商品を絞る」ことでした。
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私の担当ブランドは、今では珍しくないかもしれませんが、
主にシャツとパンツとスーツが中心の、
基本的に「女性らしい」「エレガント」というよりは、
丸の内近辺でバリバリ働く、キャリア女性が安心して着られるような
「シンプル」で「クール」で、「マニッシュ」なブランドでした。
たった一駅違いであっても、百貨店それぞれの個性や、土地の個性というのは全然違うもので、
大丸は、館そのものが比較的ブランドイメージと合致していましたが、
プランタンは、館に来るお客様の大半が「エレガントさ」や、「華やかさ」を
求めている感じがつよく、簡単に言うと、「スカートを穿いている人が多い」状況でした。
そんな中、前店長からも、また開店当時からいるスタッフからも
「プランタンは大丸と違って、うちのブランドの客層が少なくて本当に難しいんです!
だから、1型しかなくても、スカートを飾ったり、カラフルな色を見せたり、
『1点でも買ってもらえる人』を増やさないとダメなんです。」
と言われていました。
確かに客層は、大丸とは違う。
スカート穿いてる人が多いし、
大丸に比べて、雑誌を丹念に読み込んでいるような人が多いし、
同じフロアでも、フェミニンなワンピースやニットを多く扱っている店が売れている。。
そんな状況でしたが、1~2週間ほど店に立って、
私はあることに気がつきました。
マニッシュな服を見ている人も、ちゃんといるじゃん!!
割合の多い、少ないはあるかもしれませんが、
決して、自店の最も得意とする、マニッシュなテイストのファッションを好むお客様がいないわけではない、
それどころか、よく見ると、案外歩いているじゃないか、ということに気がついたのです。
そこで、私は自信を持って、
「自店の洋服を最も好む・必要とする人に、わかりやすく魅力を伝える店」にすべく、
これまでバラバラ見せていた型番や色をできるだけ絞り、
最もクールな組み合わせを見せ、思い切りマニッシュに振っていくことにしました。
それに反対したのは、開店当時からいたスタッフ。
「店長、プランタンのことを分かってないですね~。
ここでは、少しでも多くのアイテムを見せないと、売れないんですよ!」
でも私には確信があったので、なんとかそのスタッフにお願いしました。
「お願いします。一度、このやり方でやらせてください。
2ヶ月経って、売上が悪化したら、
その時にはきっぱり元に戻しますから。」
私にあった確信とは、
「自分たちの提供できる価値を、最も求めてくれる人たちにわかりやすく伝えていけば、必ず必要とされるはず」ということでした。
逆を言えば、本当は求めていることが違う人に、「これでも代用できますよ」と言わんばかりのコミュニケーションを行うのは、かえって失礼にあたるし、
お互いにとってゆくゆくハッピーな結論にはならないということ。
改革を始めてから、お客様から最も多く聞かれた言葉は
「前からこのお店ありました?」
「こういうお店、ここ(プランタン)にはなかったからうれしい!」
結果的に、スタッフの負担を軽減することにもつながりました。
ひとつの商品、でなく、ブランドそのものを気にいってもらえるようになったことで、
セットでの販売がしやすくなったのです。
1年目には、客数を前年より減らしたものの、客単価を前年比で5,000円以上伸ばすことで、フロアで連続して客単価No.1を獲得するようになり、
2年目には客数もしっかり戻り、
自身の異動前には予算未達成であった店舗の、2年連続年間予算達成も実現しました。
この時から、仕事でも、プライベートでも、
コミュニケーションをする際に強烈に問うようにしているのは、
「一番届けたい人に、ちゃんと届けることはできているか?」ということです。
一番届けたい人に届いていないものを、
できるだけ多くの人に・・・と中途半端に売り出しても、
結局、誰も、そこまで好きにはなってくれません。
マスメディアでの情報発信を主とする、PRの仕事を始めるようになってからは
自身でも忘れてしまっていたことがあるなと反省しつつ、
改めて大切にしていきたい視点です。